審査員インタビュー

Vol.01 トム・ヴィンセントVol.02 カイブツVol.03 箭内道彦Vol.04 内山光司Vol.05 安達亨
デザインのルーツは、ものをつくること。Vol.02 カイブツ


カンヌ広告賞 サイバーライオン金賞・銀賞をはじめ数々の広告賞を獲得し、今年の「第4回 東京インタラクティブ・アド・アワード」でもバナー広告部門で金賞に輝いた『ライフ・チェーン』等、いくつもの入賞作にアート・ディレクターとして関わっていらっしゃった、カイブツ・木谷友亮さん。グラフィック・デザイナーとしてキャリアを開始し、Webデザインをはじめたのは、4年前電通に出向してからという木谷さんにお話しをうかがいました。

グラフィック・デザイン系の人も、
Webを怖がることはない。
グラフィックのように
Webをデザインすればいいと思います。

—なぜ、Webデザインを始められたんですか?
本当に、たまたまでした。偶然が重なって(笑)。はじめに就職した会社では、グラフィック広告のデザイナーでした。そうしたら、電通のインタラクティブ・コミュニケーション局から、その会社に声がかかったんです。そのころ、僕はインターネットへ特別な興味を持っていた訳ではありませんが、なぜか上司に呼ばれ。お前、Webやってみろ、と。

—それで、OKしてしまったわけですね。
はい。特に印刷物のデザインだけにこだわるつもりが全然なかったので。僕はもともと、高校は工業高校機械科で、大学は機械工学部でしたから。何かモノをつくることが好きだったんです。

—そうなんですか! じゃあ、大学まではモノ作りの道を進んでいたんですね。
工業高校の、手作業だけでナットをつくるという荒行から始まりました。いまだにそれが原点だと思います。Webデザインも、モノを作っていることと変わらないんですよ。グラフィック・デザインをやっている時もそうでしたね。全部あまり変わらないと思うんです。ただ、モノづくりがしたいだけ。

—そういう人はなかなかいないですよね。
でも、Webは、Webデザインに興味ある人はもちろんだけど、グラフィック・デザイン出身の人も、僕みたいにモノづくりしたい人間も受け入れる土壌の広いメディアだと思うんですよ。グラフィックが好きな人は、グラフィックをデザインするようにWebを作ればいい。僕は、ナットをつくった時のような気持ちでWebをデザインしています。その気持ちをずっと持っていたいと思っています。

手触りの良いコンテンツや、
スキのあるコンテンツを作りたい。

—Webデザインをする時に、ご自身が大切にしていることを教えてください。
まず、「手触り感」。人間が介在している雰囲気があること、ぬくもりが感じられる仕立てになっていることが大事ですね。そのコンテンツを使うときに、作った人の気持ちとか伝えたいことがきちんと伝わっていれば成功。これは、苦労を見せるっていうのとは違います。苦労は見せちゃダメだと思っています。いくら大変だったとしても、ニコっと笑っている姿を見せたいです。もう1つは、「スキ」とか「脱力感」。一見カッコいいんだけどちょっとカッコ悪いとか、思わず力が抜ける動きをするとか。昔、「詳しく見る」って書いてあるボタンのあるサイトを作ったんですけど、クリックすると、そのサイトの一点がものすご〜く拡大されるんですよ(笑)。例えば、そういうことだと思います。結局、作っている人の人間性が見えちゃうものだから、どうやったら好かれるか、を考えることなんです。カッコいい人より、気持ちの暖かい人やなんだかスキのある人のほうが好感が持てますもんね。計算づくでこれが出来れば苦労は無いんですが、、なかなかそうも行きませんが…

—Webデザイナーとコーダーのチームで制作する方も多いと思います。
 若手デザイナー代表として、具体的なアドバイスをいただけますか。

いつもは、某N氏と仕事することが多いんですが、彼とはたくさん仕事もしているし、お互い相手の手のうちが分かっているので、阿形と吽形ばりに何も言わなくても素晴らしいものができあがってきます。そういう相手ばかりだと仕事が楽しいですが、時には違う人と仕事をすることもあります。そういうときに気をつけているのは、いつも以上に打ち合わせを大事にして、なるべく丁寧に動きなどの説明をすること。で、その後の細かい演出の部分は、思い切って任せる。目線が合って、チームとしての一体感を作れれば、だいたい成功するように思います。自分だけで作るものとは、全く違うものができてくることが、チームでやっているからこその面白さじゃないでしょうか。いつも一人でやっている人は、こういうコンペを利用してコラボしてみるといいと思います。必ず何か発見があるもんですよ。

できるだけ、大きくものを考える努力をしよう。

—では、1-click Awardに挑戦する人に、アドバイスをお願いします。
できるだけ大きくものを考える努力をすることだと思います。作りこみに夢中になっていると、どうしても細かいところに目が行くんだけど、一方で世の中の変化とか、みんなの気分とか、そういうことが見えなくなってくる。それじゃ、いけないんですよ。僕も、まったく人のことは言えないんですけど(笑)。例えば「風とロック」の箭内さんとは少しだけお仕事をご一緒させていただいたことがあるのですが、もう視界の広さがすごい!それに比べて僕の視野の狭いこと狭いこと…。
いきなり箭内さんみたいになるのは無理ですけど、作ってる途中で、いろんな眼で自分の作品を見つめなおす工夫ならできる。僕の場合はですね、夜集中して作ったものを、次の日の朝、冷静な目でもう一度見直します。すると、昨日は「これはイケテル」と思ったデザインが、全然よくないことがけっこうあるんですよ、困ったことに(笑)。

こういうコンペに作品を応募するのも、自分の実力を客観的に理解するいい機会ですから、積極的にどんどんチャレンジしたほうがいいですよ。僕も昔、先輩にそう言われて、いろいろコンペに出すようになったんです。だから皆さんには、僕から生意気ながら小さなアドバイス。現時点での全力を振り絞って、とにかくたくさん、楽しく作って下さい。楽しみにしております。よろしくおねがいします。